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国木田独歩“武蔵野” 

DSC03511.jpg


小説“武蔵野”の中で国木田独歩はツルゲーネフの
文章を二度にわたって引用している。“武蔵野”自体、
たいへんすぐれた自然描写に溢れているのだが、独歩は
ツルゲーネフのロシアの大地の描写に大いに魅了されたように
深い敬愛の念を持って長い文章を引用している。

「・・・あるいはまた四辺(あたり)一面、にわかに薄暗くなりだして
瞬く間に物のあいろも見えなくなり、白樺の木立も、降り積もった
ままで、また陽の目にあわぬ雪のように、白くおぼろに霞む
と小雨が忍びやかに、怪しげに、私語するようにパラパラと降って
かよった。白樺の木の葉は著しく光沢が褪めても、さすがになお
青かった。が只、そちこちに立つ椎木のみは総て赤くも黄色くも
色づいて、折々陽の光が、今、雨に濡れたばかりの細枝に繁みを
漏れて、滑りながらに抜けて来るのを浴びては、キラキラときらめいた。」

忙しい現代生活の中で、本の描写にじっと集中して自然の
光景を想像することなどなくなってしまったが、たまにはこう
いう静かな時間があってもいいと思う。有史以来、人間と自然は相携えて
成長してきた。今それが失われつつある。

科学や技術の発展とともに、世の中の総てがあまりにもあわただしく
動き、その波に飲み込まれて、人間の心がどんどん後ろに
置き忘れられていく・・・。そして無意識のうちに時間に支配された
空っぽな人間がどんどん増えていく。
寂しい時代である。
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